第六十一回。【おめんを語ろう。その五】彩色カバー編
お面の制作工程や、新規で発売される製品の話などを中心にお話して いく【お面を語ろう】
第五回目は「彩色カバー編」。最近では印刷と成形を組み合わせた「印刷合わせ」で色をつけるお面が増えましたが、昭和のレトロなお面を作るならば色着けはやはり塗装です。その工程で必ず必要になるカバーの話を今日はしようと思います。
目次
彩色カバーは電鋳を使って作られる。
例えば、瞳を塗装するとします。その場合、塗料を吹き付ける部分(=瞳)以外に塗料が着かないようにマスキングをしなくてはいけません。これが塗装カバーです。わたしたちはお面の塗装を ‘彩色’ と呼んでいるので、カバーのことも彩色カバーと呼ぶことが多いです。
数枚ならば成形品をカバー代わりに使うことも
試作や数枚の塗装の場合には成形品自体を塗装カバーにしてしまうこともあります。瞳の部分だけを切り抜いた成形品をかぶせて塗装をするということです。
ただし、何枚も塗装しているうちに塗料を薄めているシンナーにこの「成形品カバー」は侵され、使えなくなってしまいます。そのため、大量生産用にはシンナーに侵されない金属で塗装カバーを作ります。これが電鋳製カバーです。
電鋳とは。
電鋳とは電気メッキの一種です。メッキは、金属やプラスチックなどの対象物の表面に金属の薄い皮膜をかぶせる技術ですが、電鋳は別体として複製に使用します。
メッキは被膜ですが、電鋳の場合はより厚みを持ったものになります。測ったことはありませんが、実際の彩色カバーの厚みも数ミリあると思います。
お面の彩色カバーの場合は、成形品自体をマスターとして電鋳によって忠実な複製品を作ります。
彩色カバーの製作期間
カバーの製作日数ですが、わたしは現場にお願いする際に10日~2週間程度でお願いしています。
製作の工程として電鋳をする下準備と実際のメッキ作業で1週間~10日ほど、そして出来た複製に切り抜きや持ち手を付けるなどに2~3日程度でしょうか。以前、急ぎの仕事で1週間でお願いしたことがありましたが、やはり電鋳の厚みがいつもより薄かった覚えがあります。
カバー作りを本業にしている現場へ依頼する
これから本格的な彩色カバーを作りたいという方に ’これだけは’言っておきたいということがあります。
それは、塗装用のカバーを作るなら、それを本業にしている現場にお願いしてもらいたいと思います。なぜなら、彼らは塗装がうまくいくような知恵をたくさんを持っているからです。
わたしはお面の原型を作り出す前には必ず、カバーの現場に原稿を見せます。時間があれば必ず出向いて打ち合わせをしてきます。彩色がしやすい形状を原型で作っておかないと、最後の最後で苦労することを知っているからです。
自社内で彩色をしていた頃は、形状の確認だけでなく吹付の順番なども相談していました。楽器のリペアー屋さんが楽器がうまいのと同様に、彩色カバーを本業にやっている現場は良き塗装工でもあるものです。
第五十五回。【おめんを語ろう。その四】原型編-2 「凹凸のつけ方」
迷ったら切れ込みは小さく
彩色カバーに入れる切れ込みですが、ほんのちょっとの部分で迷うことがあります。もう少し大きく切れ込みを入れてもらおうか、いやいやこのままの方が良いかもしれないなどなど。
そういう場合は、迷わず小さく切ることを選択してください。当たり前のことですが、切ってしまったものは元に戻りません。後で広げていくことは可能ですから。
カバーのテストは比重の高い塗料は使わない
カバーが上がった際に現場で試し吹きをします。その際に比重の重い塗料は避けるべきだと思います。それは吹きこぼれの有無を判断しづらくなるからです。
成形品と彩色カバーが密着していれば、吹き付けをして色が着くところはカバーに切れ込みを入れた部分だけになります。そういう状態ならば色の境目がとてもシャープに見えるはずです。それが密着しておらず隙間がある場合には、そこから塗料が吹きこぼれるわけです。
そうなると色の境目がボケてしまいます。昭和の古き良きレトロなお面にはこの吹きこぼれをよく見ることができます。おそらくカバーが今ほど精巧ではなかったのか、またはこのボケを手吹きの良さを考えていたのかもしれません。
私個人としてはやはり吹きこぼれは最小に抑えたいと考えています。カバーのテストをした際に吹きこぼれの有無をしっかり確認して、生じるようならば対処策を講じておきたいと考えます。
そのテスト吹きの際に比重の重い塗料を使うと吹きこぼれが出づらいのです。重いだけに拡散しづらのでしょう。同じ塗料でも色によって構成物質は異なります。当然、比重の重いものもあります。その最たるものがメタリックやパール系の塗料です。
本番でも使用するなら別ですが、そうでないならばカバーの現場で行うテスト吹きには比重の重い塗料を使うのは避けるべきだと思います。できるだけ本番と同系色の色でテスト吹きを行うべきだとわたしは考えます。
彩色よければ全てよし
極端な言い方ですが、実際にそんな気持ちです。お面制作の最初の工程である原型作りが終了すれば、成形型や抜型作り・そのほか各加工の進行はほとんど計算ができます。しかし、天候に影響を受ける、また手加工である彩色は予測できない部分が残ります。
彩色でつまづくとそれまでの工程が台無しになる場合もあります。実際、上手く行かず成形品が足りなくなって追加の生産を入れるなんてことも一度や二度ではありませんでした。
それだけに予期せぬことを最小で抑えるために、原型作りと共に彩色カバーの設計は念には念を入れて行う必要があるとわたしは考えています。(本当に痛い目にあっていますから。苦笑)
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