第二十九回。【伸びーるインキ】真空成形には普通のUVは使えない。

第二十九回。【伸びーるインキ】真空成形には普通のUVは使えない。

ひと月前ほど、真空成形用の印刷データーに関して少しお話させて頂きました。
ちょうど良い機会なので、成形用の印刷インキのことを今回はお話しようを思います。

対プラスチック インキ

印刷屋の営業で社会人生活を始めたわたしですが、正直インキのことに関しては通りいっぺんのことしか知りません。
調べたこと、そして経験したことで話をいたします。

プラスチックが紙と違うのは「乾かない」こと。

成形のことはいったん置いといて、プラスチックに印刷することの特異さを考えてみます。
ちらしやポスターに使われるような用紙と圧倒的に異なるのは、乾きの悪さ
それゆえ、印刷方式や使用インキを選んでしまいます。
十条ケミカルのサイトに乾燥とインキのことにくわしく書かれている文章がありますので、抜粋・引用します。

乾燥方式と印刷インキ

印刷インキは、版から被印刷体へ転移された後で、何らかの方法で固着させる必要がある。印刷インキのビヒクル組成によって固着のタイプ(乾燥方式)が異なってくるが、主なものをあげると次のごとくである。
蒸発乾燥型
インキ中の揮発性溶剤が蒸発する事によって乾燥固化する形式である。低沸点溶剤を用いた速乾性のグラビアインキ、フレキソインキの大部分はこの型である。高沸点溶剤を用いたスクリーンインキ、パッドインキ、ドライオフセットインキもあり、浸透乾燥の全く期待できないプラスチック素材での乾燥方式としては、最も有効かつ適用例の多い方式である。乾燥速度は溶剤の種類によって調整されるが、同時に乾燥機による加熱や送風によって促進される。水性インキも蒸発乾燥型インキに分類される。
酸化重合型 
乾性油を主成分とするインキの印刷面に空気中の酸素が吸収され、ビヒクル分子をつなぎ合わせて網状の巨大分子として乾燥固化する。オフセットインキ、凸版インキ(フレキソを除く)の大部分がこれに属する。又金属材用のスクリーンインキの一部に蒸発乾燥との併用で適用されている。酸化重合はかなりの時間がかかるので、マンガン、コバルトなどの金属石鹸をドライヤーとして添加したり、更に加熱により乾燥を促進させる。
紫外線硬化型
印刷インキ皮膜に紫外線を照射し、瞬間的に反応硬化させて固形皮膜に変える方式である。UVインキのビヒクルはプレポリマー、モノマーおよび光重合開始剤(増感剤)からなっており、光重合開始剤が特定波長の紫外線を吸収して連鎖反応を起こし、インキを硬化させる。この紫外線硬化型乾燥システムの開発により、オフセット印刷、ドライオフセット印刷、及びスクリーン印刷をプラスチック類へ適用する際の大きな障害要因である「乾燥性」の問題が解決された。近年精力的に研究開発が行われ、応用例が急速に広がっている分野である。パッド印刷にも応用されている。 
浸透乾燥型
被印刷体が紙の場合、インキ中の油分が浸透し、固形分が紙の表面に残り乾燥する方式で、新聞インキなどが代表例である。しかし非吸収性のプラスチック、金属、ガラスなどでは適用出来ない。

わたしの経験でも単にプラスチックに印刷するということならば、シルク印刷・オフセット印刷、そしてUVインキを使用したオフセット印刷を選択してきました。

成形用として考えると。

では、成形用としてこれらのインキを考えた場合はその適合性はどうでしょう?

蒸発乾燥型スクリーンインキ

ちなみに、スクリーン印刷はシルクスクリーン印刷とも言っていました。
従来は絹を使ったスクリーンを使っていたためそう呼ばれていたのですが、徐々に化学繊維などが代用されるようになり、シルクが取れてスクリーン印刷と呼ばれるようになったようです。
わたしは今でもシルク、シルクと呼んでいます。

溶剤を介してインキが固着させるこの方式のシルク印刷は、真空成形に適していると思います。
溶剤とはシンナーのことですね。
お願いしている印刷現場とは長い付き合いで、インキその他は一任しています。
長いことシルク印刷+成形(印刷成形)をしてきましたが、後でお話しする「割れ」の現象をおこしたことはありません。

インクの膜も厚くよほど成形で深絞りしなければ、しらっちゃけることもありません。
ただ悲しいかな、シルク印刷の特性で4C掛け合わせ、4C分解の表現が得意でないことが選択の幅を狭めてしまいます。

酸化重合型オフセットインキ

現在、成形目的でこのインキを使用してプラスチックに印刷することは難しいと思います。
「現在」と申し上げたのは、以前にはそれを可能にする優れた用紙があったからです。
日清紡のピーチコート(成形グレード)です。

この用紙は「合成紙」と呼ばれ、初期には中芯に塩ビまたはスチロールを使い、その表裏にピーチコートという特別なコーティングをすることで一般的なオフセット印刷を可能にしていました。

ベースが塩ビまたはスチロール(のちにスチロールのみ)でしたから、成形性は抜群でした。
インキ膜が薄いため成形後に色があせる傾向にはありましたが、伸びには追従していました。
しかし残念ながら、すでに廃番となっており現在販売はされていません

紫外線硬化型UVインキ

成形を考えなければ、プラスチックへの印刷適性は優れています。
シルク印刷の短所だった、4C掛け合わせも4C分解も問題なく表現できます。

ただ、この仕様のUVインキを成形に使うには最大の欠点があります。
インキを半強制的に固めて密着させるため、成形の伸びにインキがついてこれず割れが生じます。
成形には全く不向きなインキと言ってよいと思います。

成形用ストレッチインキの登場。

シルク印刷では表現に特異性がある上に、大ロットになると費用でもつらい面が出てきます。
UVインキ使用のオフセット印刷は表現力は豊かだが、何しろ成形をすると割れてしまう。
ピーチコートが廃番になることが決まった時に、印刷成形を行っている現場では危機感がつのったと思います。

インクジェットプリントの世界で成形用インキが登場した。

オフセット印刷が先か、インクジェットが先だったかは正直わかりません。
しかし、少なくともわたしがその存在を初めて知ったのはインクジェットの世界でした。

バブルが弾けたのち、費用のかかる印刷成形品が販促で使用される機会が減っていきました。
以降、常時目にするのは飲料水のダミー缶くらいなものだったでしょうか。
数量も数十万、時には百万個近い印刷成形品を作るなんてことはほとんど無くなりました。

そんな頃、もう十年以上も前、インクジェットプリンターで初めて「伸びるインク」=ストレッチインキを目にすることになります。

印刷単価は高いが、1枚2枚でも出力できることがありがたい。

ロットが往年にくらべ減少傾向にあった印刷成形の分野で、小ロットで出力できるインクジェットは使いみちがあるとすぐにわたしは思いました。
実際その後、1ロット40枚のA1サイズ立体ポスターを受注したり、余興で使っていただく1ロット100枚の「実写面」をいくつも作らせて頂きました。

校正刷りの代用に威力を発揮。

ピーチコートが廃番になって痛かったことに、「校正刷り費用の高額化」があります。

印刷成形品を製作していく過程ではテスト成形を出します。
ピーチコートは多少料金は上がりましたが、一般的な用紙で使う校正機を使うことができました。
用紙を15枚程度持ち込んで、10枚程度校正を出してもらうということをよくしていました。

材料が数百枚必要な上に本機校正になってしまう。

これがピーチコート廃番後は、1Cにつき100枚程度(4Cならば400枚)の成形材料を入れて本機校正を行うことになりました。
これによって費用は4倍近くかかることになりました。
校正を2回、3回行えばその初期費用の負担はかなりのものになります。

本機校正のプレ校正として合わせだけの確認にインクジェット出力を使用。

色校正にはなりませんが、作成した成形用印刷データーと成形型との合わせを確認するのには、伸びるインクのインクジェットは十分使えると思います。
本機校正の数分の一の費用でそれを行うことができます。

理想を言えば、プレテストをインクジェット出力で1回、色も含めた仕上がりの確認に本機校正を1回を行い済めばベストだと個人的には思います。

成形用インキは普及していくのか。

前述のとおり、昨今、印刷物を成形にかけるという仕事自体の伸びを感じません。
成形用インキを常備して、それを核にしている印刷現場も多くないと思います。

正直、成形インキを扱うメーカー、使用する現場が今後ふえて行くのかはわたしも分かりません。
ただ言えることは、成形インキが消滅してしまわないよう、相談を頂いた案件を実現できるよう努めていかなくてはいけないということです。
ピーチコートがなくなってしまった二の舞はもうごめんですから。

真空成形には普通のUVインキは使えないよ。
それだけ貴重なインキなのです、成形用インキは。
わたしたちにとって。